
※陸自野戦特科は70年代まで第二次大戦型装備だった。
草創期の陸上自衛隊は米軍が第二次大戦中に量産した兵器を供与されていた。
1960年代以降は戦車や装甲車、小火器などの国産開発・配備が進み兵器の世代交代は確実に進捗していた。加えて各種ヘリコプターや
高射特科に配備された対空ミサイル「ホーク」などのアメリカ製の最新型兵器も導入されるようになっていた。しかし、野戦特科に関して
は70年代に入っても依然として大戦型のアメリカ製旧型火砲が使用されており世界の趨勢から大きく取り残されていたのは明白であった。
野戦特科の近代化が遅れたのは予算上の制約の他に重火砲の耐久性が他の陸戦兵器よりも長い、という理由があげられる。米軍供与の
大戦型旧型火砲は70年代から80年代にかけても現役での使用に耐えられる状況にあった。
世代交代の早い戦車や対空兵器の更新が優先された事は当時の状況では已むを得ない選択でもあった。陸自の野戦特科の近代化が
スタートするのは他の陸戦兵器の近代化に一定の目処が立った昭和50年前後である。米ソ冷戦下における陸自の北海道重視の戦略から
75式自走155mm榴弾砲などの各種自走砲の北部方面隊への配備が開始された。北方の野戦特科は全て自走化させる方針であった。
北方から優先的に近代化が始まったが本州以南の野戦特科の近代化が着手されたのは遅れて80年代に入ってからである。
北方とは異なり本州以南の師団野戦特科は牽引式榴弾砲を装備する事になった。装甲化された自走砲に比べると牽引式榴弾砲は防御力や
機甲部隊に随伴する機動力では劣るがヘリコプターによる空輸、路上を高速で移動出来るメリットが評価された。なお、牽引式の方が
自走砲より価格が安いというのは選定理由としては適当ではない、と考えられる。75式自走砲の調達価格は2億3000万円程度
であったがFH70は3億5000万〜7000万円と逆に高価であったからである。
(写真左)FH70の閉鎖機(尾栓)は垂直鎖線式
半自動装填装置を備え前弾を発射後、次弾を載せた装填トレーが自動的に薬室手前にセットされる。薬室内への装填は手動で行われる。
(写真左)射撃準備中の第1特科隊のFH70
※アメリカ製M198を抑え欧州共同開発のFH70が採用された。
昭和55年(1980年)前後に次期防衛計画「56中業」で導入される新型牽引式榴弾砲の選定作業が行われた。
候補にあがったのは以下の3種の火砲であった。
@FH70(英・西独・伊共同開発)
AM198(アメリカ)
BFH77B(スウェーデン)
FH70は英・西独・伊が共同で開発した155mm榴弾砲である。開発計画はNATO軍事合同計画に基いて1963年にスタート しており大戦型の旧型榴弾砲の更新を目的としていた。当初は英・西独共同開発で進められたが後にイタリアも開発に加わった。 各国の開発分担は次の通りであった。
・英(ビッカース社)・・・砲架・砲向装置
・西独(ラインメタル社)・・・砲身・装填装置・照準器、(フォルクスワーゲン社)・・・補助動力装置APU
・伊(オットーメララ社)・・・駐退復座機・揺架
FH70は分離装薬式を採用し通常弾で24.000m、ロケット噴進弾で30.000mの射程が要求された。
また、補助動力APUを搭載して自走して陣地への進入/転換する能力や半自動装填装置を装備し高い持続射撃能力を持つ。
反面、重量が増加し輸送ヘリコプターCH−47での空輸もギリギリ可能な状態で弾薬は別の機体で運ぶ必要がある。ところでFH70と
同時期に開発されたアメリカ軍のM198はヘリによる空輸を重視した結果、軽量化に努めAPUや半自動装填装置は装備していない。
イギリスや西独がM198の性能に満足出来ず独自にFH70の開発を進めたのは、米軍との運用思想に隔たりがあった為だと
考えられる。機動性や発射速度では”贅沢な設計”のFH70に軍配が挙がるが空輸やメンテナンスの容易さなどでは軽量型のM198が
有利である。
1977年に制式化され78年から量産開始、英・西独・イタリア軍への配備が行われ後にエストニアやサウジアラビア、モロッコなどでも採用されるなど輸出にも成功
した。日本では自走能力や持続射撃能力を評価する声が
強く空輸能力に優れたM198を抑えFH70を採用する事になった。アメリカ製兵器が主流と思われがちな自衛隊兵器だがFH70をはじめ
9mm拳銃や120mm迫撃砲RTなど意外と欧州製が多い。昭和58年度から調達が開始され日本製鋼所
でライセンス生産された。陸自の導入数は479門である。因みに日本は世界最大のFH70運用国でもある。
(写真左)射撃姿勢から自走姿勢への転換中の様子
(写真左)砲手席に装着された間接照準器
(写真下)FH70は分離装薬式
写真は模擬弾薬と模擬装薬 (写真右下)手前に見えるのは駐鋤(ちゅうじょう)。地面に喰いこんで射撃時の反動を吸収させる。
(写真左)FH70の牽引姿勢
(写真下)第6特科連隊のFH70の自走姿勢
霞目駐屯地にて撮影。富士重工製ガソリン・エンジンを備え短距離ながら自走能力を持つのはFH70の大きな長所である。これにより素早い陣地転換が可能。
FH70は通常砲弾で射程24km、自走能力による素早い陣地転換など今日においてもその性能は第一級であると評価出来る。 旧式化していた陸自野戦特科の近代化に大きく貢献した事は疑いの余地がない。一方で牽引式火砲としての限界があるのは確かであり、加えて老朽化の為に 初期導入砲から用廃がはじまっており減勢途上にある。また、陸自では火砲定数の段階的削減を進めており平成23年度からはじまる新中期防衛力整備計画では 約400門まで削減される。
※火力戦闘車は"戦闘装輪車両(榴弾砲搭載型)"なのか・・・?
FH70の後継火砲としてはアメリカ製の155mm榴弾砲M777とフランス製の155mm自走砲「カエサル」が有力視されていた。
しかし、新中期防では火力戦闘車と呼ばれる装輪式自走砲を国産開発するに決したようである。現在、開発が進められている将来の戦闘装輪車両の一つに
”榴弾砲搭載型”がありこれが相当するのではないだろうか・・・。陸自では師団/旅団野戦特科は北部方面隊のみ自走砲を装備し他の部隊は牽引式装備
であった。今後、火力戦闘車が装備されれば従来の方針が大きく転換される事になる。今後の動向が注目される。
製作 日本製鋼所(ライセンス生産)
補助動力装置 富士重工
口径 155mm
砲身長 6.022mm(39口径)
全長
・9.800mm(走行時)
・12.400mm(射撃時)
全幅 2.560mm(牽引時)
全備重量 約9.600s
補助動力APU 1.800ccガソリン・エンジン
速度 16km/h
発射速度 6発/分
初速 827m/秒
最大射程
・30.000m(ロケット噴進弾)
・24.000m(通常弾)
操作人員 9名
海鷲の末裔