
89式装甲戦闘車は陸上自衛隊初の歩兵戦闘車である。
米軍のM113など「戦場のタクシー」と呼ばれたAPCタイプの装甲車に対して1960年代後半に旧ソ連軍が開発した
BMP−1歩兵戦闘車は73mm低圧砲と対戦車ミサイル戦車を装備し戦車に随伴して共同作戦が取れる画期的兵器として西側諸国に衝撃を与えた。
アメリカや西ドイツを中心に西側各国も同種の歩兵戦闘車の開発に着手するが、日本でも73式装甲車開発時に試作車両SUBに
ラインメタル20mm機関砲を搭載するテストが行われた。
これが日本での歩兵戦闘車のはしりであるが20mm機関砲搭載型のSUBは生産コストが高すぎる、として日の目を見なかった。
80年代前半には小松製作所が自社で独自の歩兵戦闘車の試作車両を作ったがテストのみで終わり陸自に採用される事はなかった。
一方、74式戦車の後継となるTK−X(後の90式戦車)の開発に合わせてTK−Xに随伴し共同行動が取れる歩兵戦闘車の必要性が
再び認識される様になった。この歩兵戦闘車は陸自普通科部隊の機械化力を一気に近代化させる為に防衛庁技術研究本部・三菱重工業が中心
になって開発された。昭和59年には第1次試作車が完成、平成元年(1989年)には89式装甲戦闘車として
制式化された。
89式装甲戦闘車の各部の特徴
@車体
車体は均質圧延鋼板を使用した全溶接構造である。前部左舷側は機関室になっており89式は日本製装甲車両では珍しいフロント・
エンジンを採用している。前部右舷側には操縦席がありその後方に分隊長席がある。車体後方は普通科隊員6名が搭乗出来る兵員室に
なっている。分隊長を含む普通科隊員全員が携帯小銃を車内から射撃出来るガンポートを計7基(左右各3基、後部1基)備えている。
A砲塔
砲塔は車長と砲手が搭乗する2名用である。砲手のみが搭乗する1名用では車長の視界が大きく制約されてしまう。アメリカ陸軍が
M113の後継として1970年代に開発計画を進めていたXM723が開発断念されたのは砲塔が1名用であり車長の視界が十分に
確保出来なかったのが最大の原因であった。89式が2名用砲塔を採用したのは同時期に開発された他国の歩兵戦闘車と同じく車長の
視界を確保しその指揮能力を最大限に発揮させる為である。砲塔も車体と同じく均質圧延鋼板で作られているが前面は中空装甲になっている
と言われている。
B武装
主武装はいずれも砲塔に装備されている。
・79式重MAT 2基
・35mm機関砲
・74式車載7.62mm機銃
35mm機関砲はスイス・エリコン製のKDE35mm機関砲をライセンス生産したもの。陸自が対空用に使用しているL90と同型だが
発射速度を落とし構造を簡単にしている。砲塔には射撃指揮装置や発煙弾発射装置も装備されている。
Cエンジン
89式が搭載しているエンジンは三菱製水冷4サイクル直列6V型
89式は他国の歩兵戦闘車と同レベルにあるが1両あたり約7億円という調達価格の高さが災いし68両しか配備されていない。当初は約250両の調達が期待されていた。
第7師団第11普通科連隊(6個中隊のうち3個中隊)と普通科教導連隊第1中隊のみに部隊配備されている。兵器は質だけではなく両も必要だ。89式の68両という
生産数は如何にも少ない。89式もグレードダウンした廉価版を作りハイ&ロー・ミックスで配備数を増やす工夫も必要だったのではないか・・・。
例えば79式重MATを省略すれば価格を下げれる事が出来たと思う(有事のみ装備という考え方もある)。せめて150両程度生産し第11普連6個中隊全てと
第2師団、第5旅団隷下の普通科部隊には配備して欲しかった。
なお、他国の歩兵戦闘車は防御上の観点からガンポートを廃止する傾向にある。APCタイプに比べ防御力が強化されたとは言え、戦車
に比べれば弱防御であるのは世界の歩兵戦闘車に共通した弱点である。
(写真左)習志野演習場で撮影した89式
他国の歩兵戦闘車とほぼ同じアレンジだ。
(写真左)東千歳駐屯地で撮影した89式装甲戦闘車
89式装甲戦闘車は車長と砲手の2名が搭乗する砲塔を装備している。これにより広範な視界を確保する事が可能で
車長は迅速な指揮が行える。
(写真左)滝ヶ原駐屯地で撮影した普通科教導連隊第1中隊の89式装甲戦闘車
第11普連以外で纏まった数が配備されているのは普教のみだ。
35mm機関砲に対戦車ミサイルと他国の歩兵戦闘車とほぼ同じ武装である。今後は旧式化した79式重MATの更新が必要となろう。

(写真左)砲塔左舷側の79式重MATランチャーと4連装発煙弾発射装置
(写真左)車体左舷側のガンポート
89式は計7箇所のガンポートを有し内部から89式小銃の射撃が出来る。しかし、他国では防御力強化の観点からガンポートは
廃止傾向にある。
世界で有数の現代地上戦を経験しているイスラエル軍が歩兵戦闘車の新規開発を行わず鹵獲T−55や「センチュリオン」、「メルカバ」 初期型などの戦車を改造した重装甲兵車を整備している事は歩兵戦闘車のひとつの限界を示している、と言えるのかもしれない。
製作
・車体:三菱重工
・35mm機関砲:日本製鋼所
・誘導弾発射装置:川崎重工
全備重量 26.5t
全長 6.8m
全幅 3.20m
全高 2.5m
武装
・79式重MAT2基
・エリコンKDA35mm機関砲1基
・74式車載7.62mm機関銃1基
エンジン:水冷4サイクル直列6気筒ディーゼル
乗員 10名(車長、操縦手、砲手、乗車戦闘員7名)