
87式自走高射機関砲は師団高射特科部隊に配備される目的で国産開発された自走対空火器である。
1980年前後までに陸上自衛隊が保有していた師団レベルの対空火器は米軍供与の自走対空砲M15、M42、スイスのエリコン社
が開発し日本製鋼所でライセンス生産されていた高射機関砲L90などであった。80年代に入ると国産の81式短SAM、アメリカ製
の携帯式SAM「スティンガ」などの対空ミサイルの導入が開始された。ところで米軍供与のM15、M42は第二次大戦型の設計思想
の兵器であり現代の対空戦闘の趨勢から大きく取り残されているのは明白であった。L90は優秀な対空火器であったが牽引式であり
機甲部隊に随伴出来る機動性は望むべきもなかった。
70年代後半には師団防空用の短SAMの開発も進められていたが当時は機関砲と対空ミサイルを組み合わせた師団防空が想定されており
自走式の対空火器の必要性も強く認識されていた。
※陸自AW−Xに大きな影響を与えた西独軍の自走対空機関砲「ゲパルト」
昭和53年度(1978年度)には部分試作が開始され試作車両はAW−Xと命名された。
AW−Xにはモデルがあった。ドイツ連邦軍が戦車「レオパルド」をベースに開発した自走対空機関砲「ゲパルト」である。機関砲の装備方法などAW−Xは「ゲパルト」
の影響を各部に色濃く感じさせる。AW−Xは当初、シャーシは61式戦車の車体を流用
する事が予定されていたが砲塔重量などから61式の車体では不十分とされ機動性の要求と相まって74式戦車の車体をベースに
開発される事になった。やはり「ゲパルト」並みの性能を確保するには61式ベースでは到底無理だったのだ。搭載機関砲は「ゲパルト」搭載砲と同じエリコン製の
KDA35でL90のKDB35と同系列の高射機関砲である。昭和57年度には全体試作に移行、昭和62年度に制式化された。

(写真右)第7高射特科連隊に配備されている87式自走高射機関砲
87式自走高射機関砲は捜索、追跡の二つのレーダーを持つ。
いずれも砲塔後部に装備されているが当初計画では追跡レーダーは「ゲパルト」と同じ砲塔前面に装備される予定だった。
しかし、このアレンジは「ゲパルト」が特許を取得しており断念された。
砲塔に装備されている発煙弾発射装置は初期型では3連装、後期型は4連装になっている。
写真左の車体は3連装、右側は4連装タイプを装備
(写真左)87式の車体は74式戦車のものを流用している。
ただし、車体形状は大きく変化しており装甲厚や車内容積は相当に異なっていると言われる。87式の砲塔は74式戦車より重量がありかなり
トップヘビーな印象を受ける。87式は砲塔重量増加に伴う車体重量軽減の他に戦車ほどの防御力は要求されていないので車体の装甲は74式戦車
より大分薄いと考えられる。エンジンやサスペンションは74式と同じであり姿勢制御も可能である。
(写真下)87式の35mm機関砲は「ゲパルト」と同じく外装式である。外装式は排煙・騒音対策や砲塔内部の容積確保で有利な方式である。 反面、防御上のデメリットが指摘される。 35mm機関砲の基部カバーのデザインは「ゲパルト」と同一
87式自走高射機関砲は電子戦能力やコンピューター性能は新しい分だけ「ゲパルト」より優れていると評価される。しかし、調達価格の 高さは陸自兵器の中でも断トツであり1両あたりの単価は15億円にも達し調達数は僅か52両に留まった。AW−X計画がスタートした段階では110〜120両 の調達が見込まれていたのだが。配備は第7高射特科連隊、第2高射特科大隊、教育部隊に限られており全国配備はおろか北部方面隊にすら充足させる事は適わなかった。 90式戦車も取得開始直後はかなり高額であったが調達後期には量産効果が出て来て多少は安くなった事と比べても対照的である。

棒状のレーダーは捜索レーダー、円形は追跡レーダーである。捜索レーダーは全周での捜索を受け持ち追跡レーダーは射撃データを 射撃統制装置FCSに送る。追跡レーダー横にはカメラが装備され画像を車内のモニターに表示出来る。
搭載される機関砲はスイスのエリコン社が開発した35mmKDA砲
「ゲパルト」搭載砲と同じ機関砲でL90のKDB砲と同系列である。西側諸国で広く使用されている傑作兵器でもある。対空目標に対する
有効射程は約3.500mと言われ対地目標に対する射撃も可能。砲口には初速計測モニターが装備され初速に関するデータをFCSに
送る。
87式自走高射機関砲はメカニズムとしては優れた兵器であると評価出来る。
しかし、脅威となる航空機、特に武装ヘリコプターの発達は目覚しいものがある。武装ヘリコプターに搭載される対戦車ミサイルも
日進月歩を続け射程は5.000〜6.000mに達している。35mm級機関砲の射程3,500m程度ではアウトレンジされてしまう
事態が現実のものとなっている。これらの事由を踏まえアメリカ陸軍ではM247「サージェント・ヨーク」の生産計画を1985年に放棄し防空戦力の中心
を地対空ミサイルに移行させている。陸自でも対空兵器はミサイル中心で整備されるはずであり機関砲は姿を消す運命かもしれない。
製作
・車体 三菱重工
・砲塔 日本製鋼所
全備重量 約38t
全長 7.99m
全幅 3.18m
全高 4.4m
エンジン 空冷2サイクル10気筒ディーゼル
出力 720ps/2.200rpm
武装
35mmKDA高射機関砲×2
乗員 3名
海鷲の末裔