『お買い物』




                                      

「あ、圭一こっちなのですよ〜」
「おっ、梨花ちゃんおまたせ」

ここは興宮、なぜ私がこんな所で圭一をまっていたかというと――

「さて、それじゃ何を買いに行くんだ?」

そう、これから圭一と一緒にお買い物なのだ



                                      お買い物


スーパーに向かって二人そろって歩いていく
いつもは一人で歩いていく道も、誰かと一緒というだけで普段とは全く違うように感じる

「―――その時の沙都子の顔が、またかぁいかったのです」
「ははっ、それは俺も一度見てみたいもんだな」

特にとりとめもないことを話しながら進んでいると、道の脇にたい焼きの屋台がでているのを見つけた
こんな季節にめずらしい。けれど、そういえばたい焼きなんてもう長いこと食べていないことを思い出す……
…久しぶりにちょっと食べたいかも。

そう思った私は隣にいる圭一に声を掛ける

「圭一、あそこにたい焼きの屋台があるのです、一緒にたべませんですか?」
「へー、こんな季節にめずらしいな。まあ、たい焼きなんか食うのもひさしぶりだし、たまにはいいかもな」
「それじゃあ、いきましょうなのです。あ、羽入と沙都子にも買っていってあげるのです、きっと喜ぶのですよ♪」

うん、そうしよう。羽入は特に喜びそうだ、最近は甘いものをあまり買っていないしうぐぅとかいいながら幸せそうに食べている所が簡単に思いついた。
そんなことを考えながら二人で屋台へと行き、中のおじさんに注文をする

「おじさん、たい焼きくださいなのです」
「へー、最近はクリーム入りなんてのも売ってるんだな、俺はこっちを買ってみるか。おじさん、俺はこっちのクリーム入りを」
「はいよっ! 毎度!」

近くのベンチに座って買ったたい焼きを食べる……
たったそれだけのことなのに、圭一と一緒というだけでとても幸せに感じるから不思議だ

「うーん、めずらしいから買ってみたのはいいけど、これちょっと甘ったるすぎるな……」
「にぱー☆、自業自得なのですよ」

そんな変てこなものを買うから悪いのだ。でもちょっと可愛そうかな

「梨花ちゃん、残り交換してくれないか?ちょっともう喰えそうもない……」
「えっ――」

一瞬、頬が赤く染まった

「いやか?」

なっ、なんてことをいってくるのか、この鈍感男は!!
それってもしかして――ていうかもしかしなくても、か、か―

そんな風に混乱していたせいで、私は隣で圭一がニヤリと笑ったのに気がつかなかった

「へっ、隙あり!!」
「あっ!!」

しまった! 私がたべていたたい焼きはすでに圭一の手の中に――
あぁ!? 食べちゃった!!

うぅ、恥ずかしい…頬がほてってる――
そうして私が俯いていると

「ははっ、やっぱりたい焼きは餡子だな、って――梨花ちゃんそんなにクリーム嫌だったか?」

この朴念仁は……、全く関係のないことを言ってくる圭一を見ていると、なんだかその程度のことで恥ずかしがっているのが馬鹿みたいに思えてきてしまった

「…そんなことはないのですよ……、ただボクも甘いものはそんなに好きではないのです」
「むぅ、ごめんな我侭言っちまって……」
「…別にいいのですよ、圭一の我侭は今に始まったことではないのです」

ちょっと言い返しておいて圭一にもらったクリーム入りを食べる……
うぅ、やっぱり恥ずかしい、でも圭一も同じことをして何も感じていなさそうなところをみると、やっぱり私をそういう対象として見てはいないのだろうか……

「ん、どうした梨花ちゃん、なんか顔赤くないか?」

……いや、間違いなくこいつは自分がなにをしたか気がついていないだけだな……、この鈍感!!
このもやもやした気持ち、どうしてくれようか――


私がそんなことを考えていると

ぽふっ――

「!?」

急に私の頭になにかが乗ってきて……。それがなにか認識するよりまえに、それは私の髪をなではじめた

「ごめんな、梨花ちゃんがそこまで怒るとは思わなくてさ」

そういって謝ってくる圭一を見ていたらもやもやとした気分もなぜか晴れてきた
…まあ、なでてもらうのも悪くないし、このくらいで許してあげようか

「……反省しているなら、このまましばらくなでていてほしいのです」
「あははっ、梨花ちゃんってなでるのも好きだけど、なでられるのも好きだよな」

やっぱりあまり反省していない気もする
………まあ、いいか

とりあえず私はそのまま圭一に髪をなでてもらう心地よさに身を任せることにしたのだった―――



                                      ※



「―――そういえば梨花ちゃん、買い物いかなくていいのか?」

ん……、なでてもらっているうちにだいぶ時間がたっていたようだ
時計を見てみる。そろそろタイムサービスも始まるころだし丁度いい時間みたい

「そうですね、それじゃあ、そろそろ行きましょうなのです」
「ああ、そういえば今日はなにを買うんだ?」
「そうですね。たまごはまだ家にあるので…唐揚げ用のお肉に高野豆腐とシイタケと…、他の材料は家にあるのです。でも今日は荷物持ちがいるからついでにお米も買っていくことにするのです♪」
「おう!まかせろ、たとえ1年分だろうともって帰ってやるぜ!」

なんて、とんでもないことを言っているから、さっきの仕返しも含めて

「本当におねがいしてみてもいいですか?」

ときいてみたら、

「…すいませんでした、勘弁してください……」
「素直でえらいえらいなのです」

私はその圭一の頭をなでてあげる。ああ幸せ♪











「圭一、そこの鶏肉を取ってくださいです」
「これでいいのか、そこの焼肉用ってほうがでかいし得そうだぞ?」
「…鶏肉と牛肉では味も使い方もぜんぜん違うのですよ……」

ためしに圭一が言った焼肉用お肉で唐揚げを作ったところを想像してみる……
――食べられなくはないだろうが、やはり何か違う気がする



「へー、シイタケって生じゃないんだな」
「ゆがくとむくむくなのですよ」



「よっと!」
「圭一……、発芽玄米は栄養はあるとおもいますが、家で食べるのは普通の白米なのです……」




「―――毎度ありがとうございました。」

――圭一と一緒にいると何時もやっている買い物ですら、本当に退屈しない。
でも、それとは別にして、もう少しこういうことも覚えたほうがいいんじゃないかと思う……

「ふぅ、これで終わりか?」
「はい、これで買うものは全部そろいましたです。でも、圭一にはこれをボクのお家まで運ぶ仕事が残っているのですよ♪」
「うっ…、けっこう量あるよな、それ―― やっぱり途中までじゃだめか?」
「圭一を頼りにして買ったのです。途中で帰られてしまうとボクは、みぃみぃにゃーにゃーなのですよ」

この量を途中で投げ出されたら本当に困る。
まあ、ふざけて言っただけで本当に途中で帰る気はないのだろうけど

「でも梨花ちゃんも凄いよな……、俺が毎日自分で買い物して料理作って掃除して洗濯してっていわれたら三日で投げ出す自信があるぞ」
「…自信満々に言うことじゃないと思うのですよ……、それに別に毎日ではないのです。沙都子や羽入もやってくれますし、お買い物は行ったときにある程度まとめて買ってしまいますのです」

それに恥ずかしいから口に出すことはないが洗濯はともかく掃除はけっこうさぼっている。

最近は羽入がわりとやってくれているので昔のように急にだれかが家に来ることになっても慌てるようなことはなくなったのだが

「それでも十分すげーよ、その歳で自炊なんて普通できないって」
「圭一は大袈裟すぎなのですよ」

…でも、圭一に褒めてもらえて少し嬉しかった





そうして、圭一と二人で話をしながら帰っていると、ふと店先のかごのなかに綺麗な髪飾りが入っているのを見つけた

「ん、急に止まったりしてどうしたんだ、梨花ちゃん」

……ちょっと、いや、けっこう欲しい。お財布をのぞいてみるが
さっき、圭一がいるからとぎりぎりまで買いこんでしまったせいで少し足りない――

あんなかごの中に入っているくらいだから処分品だろう―――
今度来るときまであるかな……

「なんか欲しいのでもあったか?」
「…みぃ、ありましたのですが、ちょっとお金が足りないのです。仕方ないから今度来たときに買うことにするのですよ……」
「ん、そこのかごの中のか。そんなに高いわけじゃないし買ってやろうか? 欲しいのどれなんだ?」

「か、買い物に付き合わせた上に、そこまでしてもらうのは悪いのですよ……。また今度きたときにでも買うので気持ちだけ受け取っておきますです」

気持ちはうれしいがそこまで迷惑はかけられない
元々調子にのって買いすぎた私がわるいのだ

……でも、今度来るときまで残ってるかな

「…でもな、そのかご、あきらかに処分品って感じじゃないか? 次きた時ないかもしれないぞ」
「うっ……」

言葉に詰まってしまう…、これではどう見ても欲しいと言っているような物ではないか――

「ほら、欲しいんなら遠慮するなって。どれが欲しいんだ?」
「……その髪飾りなのです……」
「これか、ちょっと待ってろよ。――すいません、これくださーい!」

圭一が髪飾りをもって店に入っていく――

…今度、なにかお礼しないといけないわね


そのまま、しばらく待っていると圭一が店から出てきた

「ほい、梨花ちゃん」
「…ありがとうなのです」

小さな紙袋を手渡される

圭一が買ってくれた…圭一からのプレゼント――
とてもうれしくて…頬がどんどん熱くなってくるのを感じる……


「…圭一、本当にありがとうなのです」

少しでもお礼がしたくなり、私は圭一に心からの感謝とともに微笑んだ

「…………」
「圭一?」

こちらを見つめたまま反応がないがどうしたのだろう

「あっ、いや、なんでもない。そろそろ帰ろうぜ」

そう言って圭一はさっさと歩きだしてしまったのだが
慌てて逸らしたような彼の顔が少し赤く見えたのは気のせいだったのだろうか











「圭一、今日はありがとうなのです」

「いやいや、このくらいお安い御用だぜ。またなにかあったらいってくれよ、何時でも手伝ってやるからな」
「はい、そのときはまたよろしくお願いしますなのですよ」
「それじゃ梨花ちゃん、また明日」
「また明日なのです」

また明日、そう言って、お互い手を振って別れる――




私はそのまま圭一の姿が見えなくなったのを確認してポケットから紙袋を出し、中から髪飾りを取り出し眺めてみる。明日つけて行ってみようかな……

圭一はなにかいってくれるだろうか……

似合ってるって言ってほしいな

「楽しかったですか?」
「!!?」

急に後ろから話しかけられて心臓が止まるかと思った

「羽入!いるならいいなさいよ。びっくりしたじゃない」

私の抗議の声を無視して羽入が続ける

「それ、圭一からのプレゼントかなにかですか?、梨花もなかなかやるのです♪」
「!?」

しまった、突然現れたのに驚いて髪飾りのことをすっかり忘れていた

「でも、圭一も鈍感だと思っていたけど少しは気が利くのですね♪ それとも梨花からおねだりしたのでしょうか♪」
「なっ!?」

私が絶句していると、羽入はさらに調子にのったようで…

「梨花! 今度の日曜にでもまた圭一を誘うのです、それをつけて目一杯おめかしして圭一をげっとなのです!! あっ、デートコースとお洒落は心配しなくても僕にまかせるといいのです! 梨花はそういうのには疎いですからね、いい機会ですしみっちり仕込んであげますのです!!」

矢継ぎ早にとんでもないことを口走る羽入

……いくらなんでもちょっと調子にのりすぎよ

「羽入、1週間くらい三食懲罰用でも食べておく?」

いい加減だまらせないとさらにとんでもないことを言われそうなので、そろそろ止めておくことにする

「ふっふっふ、その切り替えしは予想済みなのです! 梨花が圭一と出掛けてる間に冷蔵庫と押入れのキムチは全部片付けさせてもらったのですよ♪」

ほう、羽入にしてはなかなかやるわね……
もう脅威はないから私のことをからかい放題というわけか――
しかし、甘い!!

「羽入、屋根裏とか本家のほうとかは見たことないのかしら? クスクス」
「えっ」

私の言葉を聞いて羽入の顔がみるみる青ざめていく

「それにキムチがなくても辛いものって他にもたくさんあるのよ。たとえばカレーとかなんてお手軽に作れるしね」
「あぅあぅあぅ!? 梨花ごめんなさいなのです。辛いのはいやなのです〜!!」

私がそこまで言うと、さっきまでの威勢はどこにいったのか、羽入は私に縋り付いて懇願してくる
まあ、今日は機嫌がいいしこのくらいで許してあげよう

「はいはい、わかったわよ。許してあげるからそこの荷物はこぶの手伝って」
「えっ、本当に許してくれるのですか?」

羽入がすごく意外そうに私を見てくる
私、普段そんなに意地悪かしら……

「なに、許さないほうがいいの?」
「梨花、荷物は僕が全部はこぶので梨花は休んでいてくださいなのです」

途端、荷物の所に移動した羽入がテキパキと動き始める


……そんなつもりで言ったのではないのだが
まあ、折角なのでお言葉に甘えることにしよう

「そう、それじゃお言葉に甘えようかしら」

そう言って私が玄関のほうに歩いていくと後ろで羽入が何か見つけたようでうれしそうに私に問いかけてきた

「あ、たい焼きなのです! 梨花これってお土産ですか?食べていいのですか?」

…ああ、そういえばたい焼きなんか買ってあったんだっけ
圭一と一緒に食べたのに羽入が騒ぐからすっかり忘れてた



…………圭一と食べた?


ボンッッ!!

瞬間、例のことを思い出して顔が沸騰した


そ、そういえば、あの時は勢いでつい私も食べちゃったけど
よく考えればなんてことをしてしまったのだろう……

だって、けけけ圭一とかか―――

「梨花?」

はっ! ま、まずい、これだけは絶対に感づかれてはいけない
何とか誤魔化さないと――

「ええ、ご飯の後にでも沙都子と二人で食べ――「圭一と間接キスでもしましたですか?」

ボンッッ!!

本日二度目……

これではもう誤魔化し切れそうもない……

羽入が後ろでニヤリと笑った気がした

「梨花もこういうのには疎いと思っていましたが……。実は気がつかないうちに成長していたのですね……。百年以上一緒にいてそういうことに全然興味をしめさないので心配していたのですが杞憂だったようなのです♪ ああ、親元を離れていく子供を見届けるというのはこういう気持ちなのですね♪」

羽入の言葉を聞くたびに顔がどんどん紅潮していく


だが、私だってそういうことに興味がなかったわけではない
何時からかはもう覚えてないけど赤坂や圭一だって気にはなっていた。

ただ、あの6月を越えるのに必死でそんなこと考えている暇がなかっただけ……



「梨花、ここでいっきに皆を引き離すのがいいのですよ! まずは―――」

思考に耽っていた私は羽入の声で現実に引き戻された。私がそんなことを考えている間も羽入は暴走を続けていたようだ

……というか羽入、さっきまでのやり取り――もう頭にないのかしら?
私はいまだにしゃべり続けている羽入に死刑宣告を下す

「羽入、今日から一週間、三食死刑用ね」
「あうぅぅ――――!!?」

後ろで羽入が何かわめいているが気にせず家に入っていく




でも、あの6月を越えた今、私を縛るものはもうなにもない……

羽入が言っていたように今度圭一を誘って見るのもいいかもしれない
たしかに私はそういうことには疎いが羽入は喜んで手伝ってくれるだろう
まあ、またからかってくるだろうけどその時は黙らせるだけだし

うん、決めた、今度圭一を誘ってみよう
そう決心すると私は玄関を開けて家に入っていくのだった

「ただいまなのです」





今日も色々なことがあってとても楽しかった。明日はどんな一日になるのだろう
でもどんな明日になろうともきっと楽しいのに違いはないはず

ああ、毎日がとても楽しみ


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