『ひぐらしのなく頃に~恋心編~』




チュンチュンと鳥の鳴き声がする

カーテンの隙間から朝日がこぼれていた

時刻は、午前十時

だが、部屋の住民は起き出す気配を見せない

いつもなら、もうとっくに起きている時間のハズなのに

今日が、日曜日であると言うことを除いてもおかしかった

ベットで寝ている少年――前原圭一は、東京にいた頃ならば普通の事だが、雛見沢に来てからという視点では珍しかった

両親もおかしいと思ったのか、何度か様子の見に来ていたくらいだ

しかし、圭一は何も反応を示さなかった

両親は、溜まった疲れがでたのだろうと判断し、しばらくはほっておくことにした

そして、二時間が経過するも圭一は起きる気配を見せないと言う訳だ

死んでいるかのように眠り続ける圭一

規則正しく上下する掛け布団だけが、彼が生きていることを証明している

コチコチコチと時計が時を刻む音がいやに大きく響く


「圭一〜、知恵ちゃんから電話よ」


「…………知恵?」


永遠に続くかと思われた状況は一変する

知恵と言う言葉に反応し、深く閉ざされていた瞼はパチリを開けられた

起きたばかりとは思えないほど機敏な動きで圭一は部屋から出て行った

次いで、ドタドタと階段を駆け下りる音が聞えたかと思ったら、ドン ドン ドン ドシンと何かが落ちた音がした

どうやら、圭一が急ぎすぎたため階段から転げ落ちたらしい





ひぐらしのなく頃に

  〜恋心編〜

第一話 物語の始まり





おかしい

誰もが、そう思った

いつもは、にぎやかな昼休み

だが、今日はシーンとしていた

理由は、どこか遠くを見ている眼でボンヤリしている圭一だった

圭一のクラス内での認識は、一言で言えば楽しい人

いつでも、どんな時でも、みんなを引っ張り笑顔にしてくれる

たまに、デリカシーのない言葉や暴走はいただけないが基本的に、みんなから好かれている

そんな圭一だからこそ色々な推測が飛び交っていた

しかし、どれも根拠が無く

誰も――それこそ、いつも行動を共にする部活メンバーでさえ原因はわからない

部活メンバーの一人である竜宮礼奈、通称レナの言い分では圭一は朝から様子がおかしかったらしい

もう一人、登校するとき圭一と共に行動する魅音の冗談にも反応は見せなかった

この時点で、二人は相当な衝撃を受けていた

だが、更に驚くことがあった

少し話は変わるが、部活メンバーの一人に通称トラップマスターこと北条沙都子と言う奴がいる

沙都子が仕掛けるトラップ技術は、トラップマスターの名に恥じぬほど高い

実際に、同年代の子らより明らかにレベルが違う部活メンバー達でさえ、全てをかわしきることは難しい

そして沙都子は、そのトラップ技術を毎朝圭一にふるっているのだ

当然、圭一はトラップを避けきれず、喰らい怒ったフリをして沙都子に突っかかる

この形が、基本なのだ

ここで話を戻すのだが、圭一の様子なんて知るはずも無い沙都子はいつも通りトラップを設置していた

しかも、今日は最後の部活メンバーである古手梨花も手伝い、ここ最近で一番の出来の物だった

無敗の帝王と呼ばれ、自他共に認める部活メンバー最強の魅音ですらかわせないと発言したくらいだ

もちろん、ことトラップに関して魅音以下の圭一はかわしきれるハズもなく、まともに喰らった

数秒の間、地面とキスしていた圭一はスクッと立ち上がり、席についた

レナと魅音は、先ほどのことがあり、他の人ほど驚きはしなかったが内心パニックになっていた

つまり、知っていた二人ですらパニックになりかけるのだから、周りは稲妻でも落ちたかのように驚いていた

特に、沙都子と梨花は驚きを通り越し、固まってしまったくらいだ

沙都子はハッと我に戻ると、何もされていないのに半泣き状態になり、必死に圭一に謝っていた

どうやら、自分のせいでおかしくなったと思ったらしい

梨花は、ブツブツと呪詛みたいに呟く始末

とりあえず、レナと魅音の説明により何とか落ち着きをみせたものの、今のような状況になっているということだ


「け、圭ちゃん、ご飯食べないの?」


最年長としての責任を感じてか、意を決して魅音が声をかけた

いつもなら真っ先に机をくっつけるのだが、圭一の机は動く様子を見せていなかった


「レナ、今日はから揚げ作ってきたんだよ、だよ」


とっさにレナも魅音にあわせる

から揚げは圭一の好きなオカズの一つである

だが、レナ達の方を向くことすらしない

言葉が届いていないんじゃないのか、そうみんなが思った


「どうされたのでございますか、圭一さん。いつも締まりない顔ですが今日は一段と締まりがないですわね」


どうにか反応を返してもらいたくて、沙都子は挑発を行うも意味はなさなかった


「みぃ〜圭一、何かあったのですか?」


ならばと梨花が顔を覗きこむ

これなら、何らかの反応を示すだろうと思っての策だったが、圭一の眼には梨花が映っていなかった

                ・・・・
それに、梨花は気付かなかったが、もう一人が気付いた


(……昔を思い出してるみたいなのです)


(羽入?)


梨花にしか見えない、巫女服を着ており、人間には存在しない一対の角を持っている少女――羽入はポツリと呟いた


(圭一の眼が物語っているのです。遠い昔――幼い時の楽しかった記憶を思い返しているのですよ)


そんな羽入の眼には、羨望の光が映し出されていた

彼女は、気兼ねなくボンヤリと思い出を考えられる圭一が羨ましいのかもしれない


(昔って、……知恵のことなのかしら)


(あうあう、そこまではわからないのです。だけど、その可能性は高いと思うのです)


梨花達が知っている中で唯一幼い時の圭一との接点がある人物

金城知恵――ある世界で、ある少年を愛し、ある事件を起こしてしまった少女

疎遠になっていた圭一と知恵の関係も雛見沢で再会することによって元通りになった

だが、梨花にとっては知り合ってからの時間も短い

しかも、前の世界で惨劇を起こしたため、尚且つその世界に希望を見出していたぶん余計に良い印象はなかった

奇跡の大安売りとしか思えない三つの世界の記憶を受け継ぐ圭一

元から抜群だった行動力や頭のキレに加え、仲間を想う心や信念が圭一の心を守っていた

事実、梨花が全てを圭一に話したことによってオヤシロ様の祟りは解決することが出来た

更に、行方不明であった沙都子の兄――北条悟史も戻ってき、最高の世界だった


(知恵さえいなければ……)


思わず梨花は黒い感情を抑えられなくなる


(落ち着くのです!)


(…………わかってるわよ。それより、圭一どうしようかしら)


梨花は、心を沈めると意識して話を変えた

まともに考えるとどうにかなってしまいそうだからだろう


(あうあう、キスでもしてみたらどうですか?)


(キキキキ、キス!? 何いってるのよ!)


羽入が、意地の悪い笑みを浮かべる

実は、この世界で眼が覚めた日の夜に散々キムチやワインを飲まれ苦しんだ仕返しでもあった

オヤシロ様を怒らしてはいけないのだ


(別に、口と口じゃなくてもいいのです。頬とかにすれば一発で起きるのですよ

それに、これは梨花の言葉に反応しない圭一への罰なのです)


(そ、そうね。圭一が悪いのよ)


あくまで笑顔で大義名分まで持ち出す羽入

繰り返し続け、百年を生きてきた自称魔女も所詮恋する少女

こんなチャンスを見逃すわけにはいかない

決意を決めた梨花は、いつものスマイルのまま軽く頬に口付けした


「「「「へ?」」」」


圭一を含め、レナたちの声がハモル

一瞬後、一足早く状況を理解した他の子達が騒ぎ出す


「りりりり、梨花ちゃん!?」


数秒遅れて圭一は、現実に戻ってきた

先ほどまでの憂い顔は一変し、いつもの圭一の顔だった

それに、満足した梨花は口が緩むのを必死に抑えながら笑顔を崩さない


「みぃ、圭一が僕の事を無視した罰なのです」


「あっ、いや、その、ゴメン。ちょっと考え事しててな」


視線を右へ左へ動かしながら、とりあえず謝る圭一

圭一としては、無視してた訳ではないが梨花に気付かなかったのは本当なので反論できなかった


「何を考えていたのですか?」


すかさず梨花が聞くと、さっきから周りで騒いでいたレナ達は動きを止めた

梨花と同じ様に恋する少女達なため、圭一の事に関しては全てを知っておきたいのである


「あ〜、それは、ちょっとな……」


恥ずかしいのか少し顔を赤らめながら圭一は頬をかいた

そんな反応に、ますます何の事か知りたくなった恋する少女達


「「「「圭一(圭一君、圭一さん、圭ちゃん)」」」」


「は、はい」


「「「「何を考えてたのですか?(考えてたのかな?かな?、考えていたのでございますか?、考えてたのかな?)」」」」


「わ、わかった。話すから」


流石に、四人に笑顔で迫られ圭一は諦めたのかため息をついた

四人の好意に気付いていない圭一は、何故そこまで聞きたがるのか疑問に思いながらも口を開く


「幼馴染の事さ。今度、ここに引っ越してくるって昨日聞いてな」


「「「え!?」」」


「な、何だよ」


突然の大声に圭一は面食らう

だが、コソコソと固まって話すレナ達に何も言うことができない

梨花は、輪に混ざっていないのだが雰囲気が発言を許さないと語っていた

怒っているようにも怯えているようにも取れたため、ますます圭一はどうしていいかわからなくなった


「圭一、その幼馴染の名前は何と言うのですか?」


「あっ、私も知りたい」


「レナも知りたいかな、かな」


「ほ〜ほっほっほ、圭一さんの幼馴染と言うのですから根性のないもやしっ子に決まってますわ」


梨花が、縋るような眼で圭一に聞くと、それにレナ達は便乗した

どうやら、幼馴染=男説と決めたらしい

圭一は、右と左のテンションの違いに冷や汗を流しながらも幼馴染の名前を告げる




「金城知恵って言うんだ」



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