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はじめてのお泊り

 

 ハイスクールに編入したときも妙な注目を集めた悟飯だったが、大学に飛び級進学した今も注目の的だった。
「ねえ、あの子でしょ、飛び級で来た17歳って」
「やだ、かわいいじゃない」
「成績もすごくいいって。カーテン教授が言ってたわ」
「単なるガリ勉くんなんじゃないの?」
「でも、背高いし、スタイルいいよ」
 ……主に年上のお姉さん達の。
 年上のお兄さん達には、最初こそ煙たがられたり子供扱いされイジメられそうになったが、悟飯の素朴な優しい人柄に、弟のように可愛がられるようになった。
 教授陣にも気に入られ、悟飯は順風満帆な大学生活をスタートした。
 そんなある日。
「おう悟飯、今日は合コン連れてってやるぜ。お前未成年だけど、ちょっとくらいなら酒飲めるだろ?」
「あ、今日はちょっと……」
「なんだ? 用事でもあったか?」
「ええ、彼女が泊まりにくるもんですから」
「彼女!? お前、彼女いたんだ?」
「はい。変ですか?」
「い、いや。堅そうに見えてたから意外だっただけだ。彼女……しかも泊まり……意外だよ。そういやしょっちゅうケータイいじってたっけな」
「そんなに意外ですかね? ハイスクールのときのクラスメイトなんですけど」
「ハイスクールって……じゃあ、お前の彼女、サタンシティからくんの? すげえ遠距離してんだな」
 合コンのお誘いは、遠距離恋愛を励まされつつ、スルーすることができた。
 話題に上った彼女とは、もちろんビーデルのことである。そう、今日は初めてビーデルが悟飯の部屋に、お泊まりデートにくるのであった。
(ビーデルさん、学校が終わったらすぐ来るっていってたから、もうそろそろかな?)
 夕方、キャンパスを後にする悟飯の足取りは軽い。鼻歌混じりに帰路を歩くその足は、油断をするとスキップになってしまいそうである。普段なら、必ずと言っていいほど立ち寄る本屋も華麗にスルー。
(晩御飯はどうしようかなあ。あのレストランに誘おうか。それとも僕の手料理食べてもらおうかな。いやいや、もしかしたらビーデルさんが晩御飯作ってくれちゃったりして!)
 もう心ウハウハな悟飯である。
 借りているアパートメントに近付くと、悟飯は彼女の気を感じ取った。
(来てる!)
 思わず駆け足になる悟飯。自分の部屋のある、三階へ階段を駆け上る。
 そこには。
「おかえり」
 悟飯の部屋の玄関の前に、少しはにかんだ笑顔のビーデル。
「た、ただいま。お待たせしちゃいましたか?」
 おかえりとただいまのやりとりが、なんとなく照れくさい。
「ううん、今きたとこ。ほら、近くのあの公園に着陸して」
「中に入ってればよかったのに」
「なんか、合鍵使うのって恥ずかしかったんだもん」
 合鍵を持ってはいるが、使用に恥らうビーデルだった。
 玄関を開けるとビーデルに、「おかえり(はぁと)」なんて言ってもらうのを密かに期待していた悟飯だが、それは次回以降の楽しみとなったようだ。
「まあ、とりあえず中に……あれ、それは?」
 部屋の鍵を取り出した悟飯が気付いたのは、ビーデルの足元に置かれている、ひと抱えほどの鍋だった。
「あの、今日学校で、調理実習で作ったの。肉じゃがなんだけど、悟飯くんに食べてもらおうかと思って」
 ビバ調理実習、ビバ家庭科! ビーデルに晩御飯を作ってもらうと言う、悟飯の妄想…もとい夢の一部を叶えてくれた。本来の授業では一グループでひとつの鍋を使い実習するのだが、ビーデルはマイ鍋を持ち込んで実習に望んだのだった。
「ビーデルさんが作ってくれた肉じゃがですか。嬉しいなあ。じゃあこれ、今晩のおかずにしましょう」
(本当は部屋で料理ひととおり作って待ってたかったけど、まだわたしにはその腕がないのよ!)
 ビーデルのくやしい心の叫びである。悟飯はすっかり浮かれてしまって、その叫びには気付かない。
 ひとまず部屋に入り、お茶を飲んだ。
「相変わらず本ばっかりね」
「これでも結構カプセルに入れて、整理したんですけどね」
 ひと息ついてから、ふたりは近くのスーパーへ食材を買いに出かけた。冷蔵庫の在庫で今晩はまかなえても、明日の朝食がないからだ。
 ふたりでカゴを持つ。それだけでふたりは照れまくっている。
「び、ビーデルさん、人から見たら僕らってどんな風に見えてますかね」
「そんなの知らない!」
 悟飯としては新婚さんと答えて欲しかったのだが、恥ずかしがるビーデルにスルーされてしまった。まだ若いので、傍目には精々きょうだいか同棲カップルかと思われるが。
 その後ふたりは部屋に戻り、ふたり並んでキッチンに立った。浮かれた悟飯と、照れて緊張するビーデルの手元は多少危なっかしかったが、何事もなく食事の支度は進行した。
 ビーデルの肉じゃがをメインに、楽しい夕食の時を過ごした。
 後片付けを済ませ、しばし和やかなお茶の時間となる。
「今日、親御さんにはなんて言ってきたんですか?」
「今週はパパ、地方のイベントに行ってていないの。だから、友達のところで宿題合宿するって言ってきたわ」
 そうか、世界チャンピオンて忙しいんだなと、悟飯はビーデルの父サタンの不在にガッツポーズで感謝した。罪悪感めいた気持ちも多少あったが、本能と煩悩が罪悪感を打ち消した。
 お茶が済んだ。
 夜にすることと言えば、次は風呂である。どっちが先に入るかうだうだ揉めたが、結局順に入り、仲良く悟飯のシングルベッドに収まったのだった。ベッドでふたりが何をしたのかは、言わずもがな。
「……ねえ、明日はどこに連れて行ってくれるの?」
 悟飯の腕を枕にしたビーデルが、けだるい声で聞いてきた。普段は活発でボーイッシュだから、その落差がやけに色っぽい。
「そうですね、遊園地と植物園なんてどうですか? いろんな花が咲いてるそうですよ」
「楽しみにしてるわ」
 ビーデルは悟飯の胸の鼓動を聞きながら、すぐに寝入ったようだった。
 普段なら枕に頭を付けた途端に眠れる快眠悟飯なのだが。
(き、緊張する……)
 自分の部屋で寝ていることには変わりない。が、腕の中にすやすやと健やかな寝息をたてる、ビーデルのやわらかい感触。悟飯は緊張してなかなか眠れなかった。
 眠れないので、腕の中のビーデルの寝顔を見つめる。
(かわいいなあ……)
 ふと、悪戯心がわいた。
(えーと、カメラ。ナイトモード。これか)
 携帯電話でビーデルの寝顔をパシャリ。悟飯は最近持ち始めた、文明の利器に心から感謝した。
 翌朝。
 先に目を覚ましたのは、早くに寝付いたビーデルだった。
(悟飯くんはッ…よし、まだ寝てる! よっしゃ、朝食の支度しちゃうわよ!)
 悟飯はいつも夜明けとともに目が覚めると聞いていたので、ビーデルは先に起きた勝利に酔いしれた。悟飯のほうは緊張のためなかなか寝付けなかったため、いまはまだぐっすりと眠っている。
 ばっちり朝食の支度をして、悟飯を驚かせてやろうと、ベッドからぬけだしたビーデルだが、付き合っていると思考も似てくるらしい。
(やだ、悟飯くんたら、寝顔かわいー。写真撮っちゃお)
 こちらも携帯電話でぱちり。
 お互いがお互いに内緒で撮った寝顔の写真は、しばらく秘密にされていたようである。

 

 

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